店舗開発マニュアル
MANUAL~売れるお店をつくる為に~
弊社では店舗開発のプロのノウハウを分かりやすくみなさまにお伝えいたします。 ※随時更新していきます。
(1)エリア調査
○エリア調査の重要性
新しい店舗の出店に際し、最も重要なポイントは、「売れる立地に出す」ということです。 お店を出す場所を間違えると、どんなにいい商品を売っていても、どんなに素敵なお店づくりをしていても、売上を大きく稼ぐことはできません。 お店を出す場所を探すには、店舗物件の情報だけを細かく見ていては不十分で、その物件がどんなエリアに立地しているのか、そのエリアは自分のお店にとってお客がたくさんいるのかどうかを、いろいろな面から詳細に調べる必要があります。
大手のチェーン店などでは、このエリア調査について独自のノウハウがあってかなり本格的な分析をしており、エリア調査の結果から売上予測値を導き出したりしています。 以下は、そうしたノウハウや調査人員がいない個人事業主にもできる調査項目について説明します。
エリア調査項目①(地域特性)
まず、出店を検討しているエリアがどんな地域特性なのかを考えます。
地域特性の分類としては、一例として以下のように整理されます。
- 商業エリア;小売店や飲食店が高度に集積し、大きな売上が見込める地域
- 業務エリア;商業店舗よりも、オフィスビルや官公庁が多く集積する地域
- 住宅エリア;マンションやアパート、戸建住宅などが多く集積する地域
- その他エリア;工場が多い地域や、ロードサイド店舗が点在する地域など
これらのエリアではそれぞれ店舗のお客となる需要層のタイプが異なります。
例えば、商業エリアでは朝から夜まで、平日も休日も遠方から老若男女、いろいろな人が大勢買物にやってきます。
一方、業務エリアでは、人が多いのは平日の日中で、その多くはサラリーマンやOLです。
これらの人たちが主に買い物や飲食をするのは、平日の昼休みの間と勤務後の夕方~夜の限られた時間帯だけとなり、土日の売り上げは期待できないということになります。
逆に住宅エリアでは、平日の日中は外出していてそのエリアにいない住民が多く、買物客は平日の夕方や土日が多いのが一般的です。
さらに、住宅地といっても、子供がいるファミリーが多いのか、単身者や学生が多いのかどうかといった世帯構成の違いによって、よく売れる商品の種類も異なってきます。 ロードサイドエリアでは自動車で通る人が主な需要層となるので、自動車の交通量はどのくらいか、自動車で通る人は職業ドライバー(トラックなど)が多いのか、通勤者が多いのかといった属性によって、売れる商品や売れる時間帯が異なってきます。
このように見ると商業エリアに出店するのがいちばんいいということになりますが高い売上が見込める繁華性の高いエリアは、店舗物件の賃料も相応に高額となり、事業主の経営規模や資金力なども重要となってきます。
まとめると、出店するエリアを検討するには
- エリア特性
- 自店の業態(商品)
- 店舗物件コスト(賃料等)
の3つの要素について、最適な組み合わせを考え、売上を最大化してかつコストを最小化し、結果として利益を最大化できる出店場所はどこなのかをじっくり吟味する必要があります。
エリア調査項目②(道路・交通条件)
まとまった開業資金を投じて繁華性の高い商業エリアに出店して大きな稼ぎを狙うのか、少ない投資で出店できる住宅エリアの中からお客がたくさんいる エリアをうまく探して堅実な商売をねらうのかなど、まず、出店したいエリアがある程度絞れたら、次はそのエリアの状況をもう少し調べます。
まず見たいのが、出店候補エリアの中を、人がどのように流れているかということです。
前述のエリア特性は、地域を“面”的にとらえて考えるイメージですが、今度はその面の中を、人が流れる“線”でとらえます。
“面”的に見て大きな売上があがる地域でも、その中には必ず人がたくさん流れて売れる動線と、そうでない動線に分かれます。
これを見極めるのが、エリア調査でたいへん重要となります。具体的には、そのエリアの中で道路網がどのように張り巡らされているか、その道路をどの ぐらいの数の人が、どのような交通手段で移動しているのかということを細かく観察します。
例えば駅前の商業エリアなら、駅から出てくる人はどの改札口が最も多いのか、改札を出てから大通りを通っていく人が多いのか、駅前からすぐに細い路 地に分散していくのか、徒歩の人と自転車の人で通る道に違いがあるのかなど人の流れを細かく観察して地図に落としていきます。
この作業により、出店候補エリアの中の「売れる動線」が見えてくるので具体的な物件探しは、この動線上にある物件に絞って選んでいくことになりま す。
こうした調査をするうえで便利なのが「住宅地図」です。これは、ゼンリンなどから市区町村単位で冊子となって販売されているものが一般的ですが、最 近は電子地図のサービスが出てきており、以下のようなものも利用できます。
- ゼンリン住宅地図プリントサービス
- Google MAP
無料で広く使われている地図ですが、縮尺を拡大すると住宅地図と同じように建物の形も書き込まれているので、これも調査に活用することができます。 ただし、住宅地図のように、一つ一つの建物の名称や入居している店舗などの情報までは載っていないので、その点では住宅地図の方が優れています。
エリア調査項目③(商圏データ)
前述の過当競争かどうかの見極めは、商圏需要の量と競合店の量とのバランスがどうなのか、という観点から判断します。
まず、商圏需要とは、要するにお客の数ということです。出店を検討しているエリア内に、どれだけの人が住んでいるか、そのうち、出店候補の店舗物件で買ってくれる人はどのぐらいになりそうかということを推計します。商圏需要を推計する資料として、政府が実施している「国勢調査」という統計データがもっともよく使われています。
これはたいへん便利な統計資料で、人口や世帯数などのデータを市区町村別・町丁目別・500mメッシュ別といった細かいエリア区分で集計しているため、出店候補のエリアや物件の周辺にどれぐらいの数の人が住んでいるかを正確に把握することができます。
さらに、人口も総数だけでなく、男女別・年齢別の内訳があり、世帯数も単身世帯・小さな子供がいる世帯・高齢者の世帯などの内訳があるので、数だけでなく「どんな人が住んでいるのか」も詳しく把握することができます。
国勢調査のデータは、書籍として発行されており、官公庁サービスセンターで購入できるほか、図書館など多くの場所でも閲覧できますが、ホームページでも無料公開しているので、容易に入手できます。
続いて、競合店について調べます。競合店の状況を把握するには
- 自店と同じ業種業態の店が出店候補物件の周辺に何店あるか
- それらの店は現時点でどのくらいの売上を上げているか
の2つのポイントを確認します。
競合店の数については、前述の調査項目③で現地調査により把握しますが、出店候補エリアがある程度大きな商業集積エリアである場合は、「商業統計調査」という政府の統計データが活用できます。 商業統計は、小売業の店舗の店舗数・従業員数・年間販売額・売場面積などのデータを集計しており、各地に出店している店舗の量だけでなく、規模や収益性も把握することができます。
これも国勢調査と同様に、市区町村別など様々なエリア区分で集計していますが、特に使いやすいのが「商業集積地区別(商店街別)」の統計です。
上記の表で、例えば小田原駅の周辺にある4つの商店街を比較してみると、事業所数(店舗数)・年間販売額・売場面積・1店当りの月商(販売額)のいず れも、「小田原駅前商店街」が最大で、他の3つに比べ、圧倒的に大きな規模の商店街となっています。
しかし、これを「月坪」(売場面積坪当りの月商)で見ると、「小田原駅前商店街」よりも「小田原駅浦町商店街」の方が坪当り8万円以上も高い数値となっています。
つまり、規模では「小田原駅前商店街」のほうが大きいが、店舗の大きさに対する販売効率(収益性)は「小田原駅浦町商店街」の方が高いので、仮にこ の2つの商店街の店舗物件の賃料水準(平均坪単価)が同じぐらいであれば、「小田原駅浦町商店街」の方が利益率が高いエリアであるということになるのです。
また、この月坪効率という指標は、いろいろな意味を含んでおり、上記の例でも、月坪に格差が生じている理由として、
- 「小田原駅前商店街」は店舗が多すぎて、需要を取りあっているので月坪効率が下がっている
- 「小田原駅前商店街」は大型店が多く、「小田原駅浦町商店街」は小さな店舗が多い
- 「小田原駅浦町商店街」は、商圏需要に対して店舗の集積が小さく、まだ新規に出店する余地が十分にある
- 「小田原駅浦町商店街」の方が収益性の高い業態の小売店が集まっている
など、いくつかの要因が考えられます。 これに対して、各商店街の商圏需要(人口世帯数)のデータを組み合わせたり、現地調査での店舗物件・テナント企業の集積情報を合わせて考えると、ど の要因がより強く作用していて、そのエリアは今どんな状況にあるのかが分かってくるようになります。
上記の例は、小売業全体の数値で近くの商店街どうしを比較しましたが、さらには、同じ商店街の中での業種ごとの違いを比較したり、同じ業種をもっと広域的なエリア間(川崎市と小田原市等)で比較することもできます。
エリア調査項目④(歩行量調査)
これらの情報を調査・収集していくと、自分が出店するのによさそうなエリアとそうでないエリアの違いがだんだんとわかってきますが、最終的には、自 分が実際に出店した場合にどのぐらいの売上を稼げそうなのかについて、予測を立てたいところです。
今までいろいろな調査項目について説明しましたが、売上予測をするうえで重要な調査項目がもう1つあり、それが歩行量調査です。
最終的に店舗の売上を左右するのは、その店舗の前を通る人の数であり、どんなに商圏人口が多くて既存店舗の販売効率が高いエリアでも、その中でまっ たく人が通らない動線上に店舗を出してしまったら売上は上がりません。
極端なことを言えば、この前面歩行量さえ把握してしまえば他のデータはなくてもいいというぐらい、大事な調査項目ということになります。
しかしながら、この前面歩行量は、ごく一部の地点を除いて統計データなどがなく、基本的には自分で実地に調査しなければ手に入らない情報です。
歩行量調査は基本的に以下のようなやり方で行いますが、カウンターと筆記具があれば誰でもできる作業ですので、労をいとわず確実に実施してほしいところです。
○ 歩行量調査を行う地点
歩行量調査は、まず出店候補物件の目の前の通り(地点①)で行います。
さらに、道路の幅員が狭かったり、近くに横断歩道があったりして道路の反対 側から渡ってきやすい場合は地点②も調査します。同様に、店舗物件の看板の視認性がよく、少し離れた位置からもよく見えるようであれば、地点③や地点④を 通る歩行者もお客になり得ます。
これらは実際に現地に立ってみて、自分が通行人だったらこの物件に気づいて買い物をしようと思うかどうかを考えながら判断するとよいと思います。
○ 歩行量の測り方
- 対象者 自分の店舗の来店客として見込める歩行者や自転車の通行者 ※小学生以下の子供など、明らかに違う属性の人は除いてカウントします
- 測定日 平日の1日と、土日のうち1日の2日間は最低実施します
- 測定時間 自店の営業時間のうち、最も来店客が見込める時間帯で、1時間の歩行量をカウントする ※例 飲食店であれば、12:00-13:00、18:00-19:00 など
- 留意点 できれば、人数のカウントとあわせて、どんな人(性別・年齢・外見から想像される職業など)が多いかも把握するとよい
○ 出店候補エリアの検討
このような調査を経て、出店するエリアの候補を選びます。この段階で1つのエリアに絞れることもありますし、優劣のつけがたいエリアが複数残ることもあります。
候補エリアのうち、実際にどこに出店することになるかは、そのエリアの中によい候補物件があるかがポイントとなってきます。
(2)候補物件調査
具体的な、出店候補の貸店舗、店舗物件が見つかった場合に、次に以下の内容の精査が必要です。
① 建物全体の確認事項
- 現在どの様に使用されているか、どんなテナントが入居しているか
- 客用入口とは別に搬入用の出入口(エレベーター)は有るか
- 電気容量、給水管・排水管・ガス管は自店の業態に必要な容量を確保できるか
- 床荷重は自店の業態に必要十分か
② 出店候補区画の確認事項
- 店舗入口や看板の位置は目立つか、地下1階や2階は、専用階段は有るか
- 店舗区画は必要な広さがあるか、什器備品や商品を適切に配置できるか
- 店舗区画内に窓は充分な数があるか
- 飲食店の場合、排気ダクトの噴出しはどこに出せるか
(3)契約手順
① 契約手続きの手順
気に入った物件があり、いよいよ出店を決意しようという段階になったら、物件の契約手続きに入ることになりますが、その手順は、一般的に以下のような流れになります。
・事前交渉
不動産業者と賃料条件その他の希望について、まず予備的な交渉を行います。
「賃料を○○まで下げてくれたら借りたい。」とか、「看板をこのようにしてほしい。」など、こちらの要望を伝え、それが実現できそうかの感触をまず確認します。
・申込書提出
こちらの要望が通りそうな感触であれば、次は申込書を提出します。
これは、「こういう条件で出店したいです。」という意思表明であり、その内容は、事前交渉で出した要望に沿って書きます。
この申込書は借りる側からの意思表明であり、これをもって契約成立ということではありません。
また、貸主側も、複数の申し込みがあった場合はより条件のよいテナントを選んで契約することができますので、申込書を出せば必ず契約できるとは限りません。
・本契約
申込書を提出し、貸主側も契約したいという意向を示したら、次は本契約に向けての契約書の内容の詰めを行います。
本契約では、賃料や一時金の支払条件の他、禁止事項や契約に違反した場合の損害賠償事項など、様々な項目が盛り込まれますので、それらの項目について、こちらの要望も伝えながら契約書文案を吟味していきます。
・内装工事
契約内容の合意に至り、契約を締結したら、内装の工事に入ります。
工事の内容によっては、貸主だけでなく、近隣の住民や交通への配慮も必要となります。
工事を実際に行うのは業者でも、工事に関する最終的な責任者は出店者になりますので、こうした点も内装工事業者と十分に詰める必要があります。
・開店
内装工事が完了後、商品や設備を搬入し、必要な諸届等を終えたうえで、開店となります。
② 普通借家契約と定期借家契約の違い
最近、店舗の賃貸借契約において、「定期借家契約」という形態が増えてきました。
これは、簡単に言うと、契約更新を前提とせず、契約で定めた期間内で契約が確実に終了する形の賃貸借です。
定期借家契約は、通常の賃貸借契約と比べて、以下の点に注意が必要です。
・契約期間の終了と更新
契約の更新はなく、契約期間の満了により契約は終了します。
つまり、契約期間が過ぎたら、閉店して退去しなければならなくなります。
・契約期間中の賃料の変更の可否
貸主側の意向で、契約期間中の賃料の変更はできないと定めるケースがほとんどです。 これは、契約期間中の賃料収入を、あらかじめ確定させておきたいという貸主側の事情によるものです。
・中途解約の可否と違約金
契約の更新(延長)ができない一方で、契約期間満了前の解約もできないと定めるケースが多いです。
また、中途解約を認めても、契約満了までの賃料の残額をすべて支払うよう求めるケースもあり、何らかの違約金が条件として付く契約がほとんどです。
③ 一時金(保証金・敷金)に関する留意点
・保証金・敷金の額(月数)
物件によって大きく異なりますが、下記の内装工事に関して、貸主側がどれだけ負担しているかも含めて、妥当な金額について交渉すると話がまとまりやすいです。
・保証金の償却
保証金は契約終了時に一部を償却(貸主のものになる)するという条件もよく見かけます。
注意したいのは、退去時の現状回復費用として、この償却分とは別に貸主から請求されることを契約書に盛り込んでいるケースも多いので、保証金のうち戻ってくる金額と、退去時に支払う可能性がある金額についてよく確認しておく必要があります。
④ 内装工事費の負担(A工事・B工事・C工事)について
・A工事・B工事・C工事とは
内装工事は、原則としてテナントが自分で負担し、施工するものですが、
物件の状態や、他のテナントとの調整のため、貸主が施工する部分も生じる場合があります。
それらを端的に表現するため、以下の表現がよく使われます。
A工事:貸主が費用を負担し、貸主が施工する工事
B工事:テナントが費用を負担し、貸主が施工する工事
C工事:テナントが費用を負担し、テナントが施工する工事
・A~C工事区分に関する調整
貸主が負担する部分とテナントが負担する部分の範囲がまず問題となることが多いですが、B工事については、
その工事費の見積額が適正かどうかも問題になりやすいので、本契約の交渉の際に、この工事費の区分と負担に
ついても十分に話し合っておく必要があります。
通常、貸主側に内装工事監理の担当者がいて、この点について細かく調整していくことになります。
⑤ 官公庁への届出・許認可
小売業や飲食業に関して、官公庁の許認可や届出の対象となっているものはたくさんあります。 自店はどの事項に該当するのか、必ず確認して手続きを行ってください。 一例をあげると以下の通りです。
・全業種共通
事業所の届出関連(市役所・税務署)
従業員の届出関連(税務署・社会保険庁)
防火・消防関連(消防署)
・小売業関連
古物商(警察署)
弊社では店舗開発の業務委託、補助調査、マーケット調査等も請け負っておりますので、お気軽にご相談ください。